息子とキリギリス
事の発端は日曜日の夜でした。部屋に侵入した黒ゴキブリを夫にゴキジェットしてもらい寝室に戻ると息子が号泣してました
「カサカサ動いて可愛かったのに殺した!」
という息子
実行犯ではなく正しくは殺害を指示した私ですが、息子の悲しみは翌朝もおさまらず
「このチーズを一緒に食べたかった」と呟く始末、だが断る
園に送った後、息子には、彼らが火星で生き残りえらい事になってる話をしないとあかんかなと考えて自宅にいたところ、緑色のバッタらしき虫が窓にいるのを見つけました。これは、天の助け!とばかり私は捕獲しました
予想通り、帰宅後にカゴを見て、気が逸れた息子
見せてすぐ逃がす予定だったその虫は、バッタと思いきや、オナガササキリというキリギリス属のメスでした
こうなると更に興味が湧くもので、音が聴きたくなり寝室に一晩滞在していただく事にしたのですが、あろう事かササキリのなき音は、ジリジリという電子音にかなり近い音で、夫と私は何度もスマホの不具合と勘違いして夜中に何度も起きる羽目になりました(あまりに周波数が近いのか、何度か試してもスマホのビデオに音が入らなかった)
そして、これが悪いことに情がうつってしまい、ササキリの滞在日数は延びるばかり。ネギや魚肉ソーセージが好物というので、カゴに入れるものの手を出さぬ彼女
てなづけた感触もなく、寿命を危惧した私は、逃す事を息子に2日ほど毎朝提案しました。息子は何度も泣いて嫌がったものの、逃がすのに良い場所も自分で決め、決心がついたら教えると言いました
そして今日の夕方、「よし行くか!」と息子が言いました。しかし、玄関を出たら「本当は離したくない」と言ってうなだれ、引き返し泣き、また決心して外に出ました
息子の指定した場所は、食われ放題の葉が茂る地帯で、確かに虫の合奏が聞かれ、長生きしそうな場所でした
私も、野生に返したら速攻食われるかもと心配するほど情がうつってましたが、ぐっと我慢しました。そして息子は私にカゴを開けるよう指示しました。泣く割に一度も触らず、なんと屈折した愛し方!きっとゴキブリで手を下さなかった因果応報がここで私にかえったのでしょう
彼女はしばらく蓋にしがみついており、また持ち帰ろうか悩みだした時、強い風が吹き、彼女は飛び出しました。夫は飛ばされたのでは?と言いましたが、風向きに逆らったので、私は自分の意思で飛んだと思います。
そして息子は号泣しました。
帰宅すると息子はお絵かき帳を切り取り、「忘れないために」とササキリを絵にしました。そして「僕はあの子にキリギリスちゃんて名前をつけてたんだ」(そのまんまだな)「あの子がいて鳴いた時、森にいる気持ちになれた」(行った事ないのに)と思いを伝えてきました
果たして、自分がさせた事は正しかったのだろうか?
そう悩む私に夫は
「彼女は自分の意思でカゴから飛び出したんでしょう、だったら帰りたいって決めたのは彼女だよ、それでいいじゃない」
と言いました。
私はなんとなく、このことを忘れたくないなと思いました。社会情勢に疎く、虫の知識ばかりが深まる秋です
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