ラーメンの汁を残せません
夫の入院を知った友人から救援物資が届いた。
なんだかんだ気にかけてくれる人はいる。
そろそろ週末に入る夫の入院生活だが、血糖値は多くても200を切り
患者としては優良と言われているらしい
3日ぐらい経ったところで個別の栄養指導があり、そこでも夫は
闘病開始後の献立を褒められていた。
と、そこでアタシは馬鹿な質問をする
「あのう、私常々ラーメンの汁を残せない事に悩んでいるのですが」
栄養士さんはちょっと困って「でも赤ちゃんのために長生きしたいでしょう」
と言った。
話は37年前にさかのぼる。アタシを出産するため母親学級に出ていた
母はそこで汁ものが海を汚すという指導に衝撃を受け、そこから汁もの
が一切残せず飲み干すようになってしまった。そしてアタシもそうなった。
最近はラーメンでも「何時間も煮こんだこだわりのスープ」なんて
言われるともう申し訳なくて駄目である。
結局この日も「アタシは生まれ変わる事は出来るかもしれないが
海は生まれ変われない、駄目駄目絶対残せない」と思って帰った。
この日はアタシにメガネ先生との面談があって、そこでも夫の入院
以降の話をトッチらけた結果、珍しく先生が苛立ってしまい
今月は大丈夫ですと申告した漢方薬をいつも以上に処方されてしまった。
人間同士なのでうまくいかない事もあるが、精神科医と折り合えないのは
結構ショックを受ける。
ただそこでアタシは、祖父の死、フランスのテロ、夫の糖尿病と立て続けに
起こった事である日突然人がいなくなる事や死についてかなりショックを
うけて思った以上に参っていることに気がついた。
そんな中昨日、夫は主治医の先生にもう少し発見が早かったら糖尿病に
ならずに済んだであろうこと、なった原因はおそらくジュースの飲み過ぎ
であろうと告げられたと電話で話してきた。
それは自分にとってはかなり衝撃的なことだった。
出産直後からしばらく冷蔵庫にジュースを絶やさないようにしていたのは
このアタシだったからである。産後の眠れない時期をのりこえるため
そして夫も好んで飲んでいたため、育児のために職場を変えて
頑張ってくれている夫にせめて喜んでもらおうと思ってやったことが
結果最悪な事態を招いてしまった。原因は、アタシではないか・・・。
しかも夫は単に好きだったから飲んでいたわけではなくて、冷蔵庫の
スペースも確保したかったという理由もあったと知りかなり落ち込んだ。
胸が締め付けられるように痛んだ。
「健康に気をつけた生活さえすれば何も問題ないんだよ」
と話して淡々と努力する夫に対して、私がここで落ち込みすぎるのは
何も良い結果をうまないし、父にも
「お前ひとりが原因だなんてことはないはずだ」と言われ
きっとこれが鑑定ならたぶんアタシもお客さんにそういうのだが
夫がこうなった以上、私も何か大事なものを諦めて差し出さなければ
とか、こうして夫のいない部屋で息子と二人愛情を育むのは、
自分ばかり幸せになろうとするようで良くないのではないか
という罪悪感にかられたりして、いや、たぶんでもこれは違う
とか、頭の中でストップをかけたい自分と沈んでいく「善」の自分
を常に闘わせなきゃならなくて段々疲れてきた。
心の視界は狭くなるが、誰かに文章を届ける時間はない。
世の大抵の人はこの脳内の二人の闘いに勝つんだから本当すごい
そしてとりあえずアタシは、負け気味でも、こうして粛々と落ち込むのは
オナニープレイ以外の何者でもないと自覚しているだけいい事にしよう
と思った。
少なくともアタシにはラーメンの汁を残す事に比べたら簡単に思える。
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