
300円ショップで買ったコーヒーの木が実をつけて赤く色付く頃、
アタシは助産院でうけた言葉の後遺症に苦しんでいました。
その時何度も頭のなかには先輩のことが浮かんでいました。
霊能の道のセンパイ。
その先輩が新しく勤め始めた店の情報を片手に
電話鑑定用にクレジットカードを握りしめ
何度も電話しようとするのにどうしても出来ません。
最初は自分のプライドのせいだと思っていました。
それで頭を下げられないんだと。
でも、アタシはベッドの自問自答のなかでふと何故駄目なのか
気づいてしまったのでした。
「駄目だ、アタシはこの人が好きなんだ」
頼りたいのは聞いてみたいのは、ミエル世界が近いから、
曲がらないからだとそんな風にばかり、技能ばかりで捉えてたけど
今更気づいちゃったよアホだな…単純にアタシはこの人が好きなんだ。
可愛いものが好きだったり、もふもふしたり
そんな一面をグッとおさえて、失恋したアタシを励ましてくれたり
自分を抑えて職務を全うしようとしたり
繊細さを抑えて姉のように強くあろうと頑張っていたあの人を
知っているのに、仕事で頼めば良いだろうとか、そういう気持ちでもう
この人を頼るのがアタシはもう精神的にキツい。
自分がどんな状況であろうと、その気持ちは変わらない。
アタシは彼女にはもう、楽しいことしか言いたくない。
自分の気持ちに気づくのが遅くて、カッコ悪くて、そういうことに
だらだらと涙を流しながら、アタシは電話を戻して
「耐えろ…耐えろ…」といい続けました。
彼女は勘がいいから何か感じ取ったらまずい。
そう思ったから、最近の猫の写真を送信しました。
でも、話はここで終わりませんでした。
一昨日彼女から突然連絡が来たのです。
「な、何かありました?」ドキドキ
としらを切るアタシに、彼女は
「ん、なんか悪阻ひどいかなって気がして。勘違いかなごめんね」
さすが一流…すげえなあ…と思いつつ、迷ったあげく正直に事態を伝えました。
実は今日、精神科のある総合病院に産み場所を変更したこと
色々あったけど、助産院で霊能者にあっておかしくなってしまったこと
本当は頼りたかったけど出来なかったこと…
「センパイが人として好きなので、困ったときに助けてくれたので
もうそういうときに連絡したくなかったんです。どうなるか分からないけど
今はこの道しかないと思うから頑張ります。
でもいつかくだらない相談で頼らせてください。」
沢山いろんなことを伝えすぎないようにメールにしました。
でも返事はすぐに来ました。
「私もあなたが好きよ、
きっと妬まれたんだよ、あなたは力が強いもの
ホルモンバランスが崩れて変な人に会ってしまったのね
もう忘れましょう…
身体を守るのは大切だけど自然に復活するはずよ
惑わされちゃダメ、あなたは思いやりがあって
人として大切なものを大事にしてるからぶれないよ
…今度なにか言われたら乗り込んでやるから
私は味方よ」
一行もあけず、打ち込まれた文字にどれだけの勢いと
思いを込めているかまでわかりました。
だってアタシと先輩は隣同士並んでどうやって
人を大事にするのか肌で感じてきましたから
適当な言葉でスルーしないことなんてわかっていたんです
でもこの頼りがいのある姿に
同時にどれだけの人が甘え感情の捨て場所にしただろう?
困ったときしか頼ってこない人にどれだけ傷をつけられたろう
心と身体を休めたい大切なときに
その辛さがわかるから
自分はそれをやめようとしたんです
この人に大切だと伝えるにはそれしかできない
と思ったから
でもどうだろう、文面を読むたびに
アタシは泣けて仕方なくて
この人がアタシを見ていてくれたこと
アタシが彼女を見ていたこと
その絶対的な信頼が一枚の絵のように胸にせまってきました
この絆とも言える「近い」って何かを思い出すから
強くなれる気がする
だからこの道をアタシはまだいく。
ずっと、同業者に、いやこの仕事をする前から
なんで人と一線をおいて付き合わないのかと言われてきました
そんなことをするから疲弊するんだよと
ポジティブな言葉を使い
パワースポットへ行き
ネガティブな人を遠ざければ
そりゃ人は幸せになるかもしれないです
でも人間は揺れるし
揺れるなかで迷い変わり続けるし
時には泥沼に落ちます
落ちないように逸れないように守りに入るのは
ある意味で窮屈なことです
アタシがいつだってあげたかったのは
自由なんだとおもいます
どこに落ちても、何があっても、この信頼を思い出せば戻ってこれる
そんなやつです
人間は、互いの間に一枚の絵を
奇跡的な共有をするためにぶつかったりいがみ合ったり
語り合ったり何かを共有するんだと思うんです
戦場でうっかり丸腰の兵士同士が会ってしまった時にあるような
ボクシングの最中に拳を合わせた瞬間に相手と自分が
リングに上がっている理由を感じ取ってしまうような
一枚の絵に泣くような
ライブのとある瞬間に、ステージ上のその人を
これは俺だと思ってしまうような
シンプルに言えば人間は「あ、おんなじだ!」って言える瞬間を
味わうために出会ったりぶつかってる
大抵はこういう瞬間は片想いで終わるんです
でも、互いにわかりあっていると思える人に奇跡的に出会ったとき
人は本当にその記憶ひとつで自由になり強くなれる
流行りでいうなら絆を感じるということ
そのために必要なのはまずこちらが相手を感じることで
アタシにはありのままのその人を感じて受け止めるのに
一線を引くことなんか出来なかったんです
そもそも引いてわかるほど器用ではないし
美輪さんなら無償の愛っていうんだろうけど
アタシはもうちょっと違う気がします
不殺の赦しとか
不殺の祈りとかそういう感じ
相手の弱点も急所も全部知っても潰さないこと
いつかわかりあえるといいなと思って見逃す
知るゆえに仕事上の立場を越えて苛立ったり怒ることもあるし
今みたいなときは逆に仇になってみっともなく潰れるわけだけれど
それでもアタシはこの生き方を止めないだろうし
そしてやっぱり鑑定士に戻りたいと思っています、時期が来たら。
そんなわけで先輩との久々のやり取りはアタシに
言葉にうまく出来なかった大事なことを形にするチャンスをくれました
だからやっぱり彼女へはすがるより祈っていたい…
やり取りのあと、今はまっている猫のゲームの
お気に入りの一匹に彼女の名前をつけました
嬉しそうに寝転がっているその猫をみるたび
今日もこれくらいあの人がのどかであってほしいと
勝手に願っています、勝手にね