うつせみばし
医者に言われた臥薪嘗胆という言葉のことを考えている。
「人に相談、僕だってしないよ、臥薪嘗胆、辛いときほど。」
中国の二つの国が争っていて、最初に負けた片方が薪の上に寝て
その痛みで悔しさを忘れないようにして復讐を遂げ、
次に負けたほうが苦い肝を舐めて悔しさに耐えて再度復讐を仕返すという話。
どーしても許せない奴がいる、ぶっ潰さねば気がすまない。
癒されるどころか日に日に募る悔しさ。
ただそれをするには今の生活の殆どを変えなきゃならないだろう。
そういうのをやめて、心に引っかかりがあっても
元の生活を続けるという選択。
平穏であろう、しかしこの小骨のように刺さる悔しさを
残す事は本当にいい選択なのだろうか?
ジムで身体が楽になった時
自分の心を奪われた気がした、何かがみるに見かねて
導いたのかもしれないがなんか悲しかった。
憎しみは何も生まないわ、と人は言う
でも言う側は単にそういう憎悪の結果が自分に影響するのが
単に怖いだけではないのか?
うちの店を昇った先に橋がある、陸橋。
誰が名付けたかうつせみばし。
片手に店用のタオルをわしづかみにして歩き
フェンス越しに電車を眺めると
隣に7年前のアタシの亡霊がいた。
不規則すぎる生活の果ての吹き出物で一杯の顔
中途半端に目覚めたオシャレでグレーのパーカーの下
アニエスb.のスカートの下に普通にデニムをあわせてる。
じっと山手線をみながら、今日は来るかなと呟いている。
亡霊はとある男からの連絡を待っている。
版画家としての自分が無くなって
部屋だけが残されて、そこで一晩の経験をした
男からの連絡を待っている。
当時のアタシは、コトに至れば男から連絡が無くなる
なんてことは迷信くらいに思っていた。
その迷信が破られたことに気付いてないのか認めたくなかったか
だから山手線の上下が合わさったら連絡が来るとか
そんな占いを勝手に作って立っていた。
健気とも言えるが実際は高いパーセンテージで馬鹿だろう。
「あのさ、」
とアタシは話しかけると彼女がこっちをみる
すがるような顔をみた時
あ、今のアタシはなんだかんだこいつより自由じゃんと思った。
人はネガティブを転がしていても、成長はしていくもんだな
と思った。
店を掃除する前に控えていた煙草を一本だけ吸った。
「・・・うまいな」
と思った。
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