墓荒らし。

二週間前、前から行くのを楽しみにしていた場所に何故か三日前から行きたくなくなった。泣きたくなるほどの拒絶感が起こるが理由がわからない。バンド練習の後カズキックとミーティングしてその時に場所を確認して意味がわかった。

そこはアタシが詩人として一度自分を殺した場所の跡地に出来ていたのだ。

でも今そこは作品を展示するにも魅力的な店があるのであり、迷ったアタシは半ば強引にカズキックを誘った。たぶん一人で行くのが嫌だったんだと思う。電車の中でも落ち着かないアタシは自分でも自覚できるくらい平常心が欠けていた。不安から不審なメールを打ち出すアタシ。一人でも多く繋がっていたかった。

アタシがアタシでなくなった場所に続く道は不況のあおりでFOR RENTの文字が躍っていたが、それ以外は当時と変わらなかった。行く道の途中で、記憶の中で忘れていた自分に何人もあった。おめかしして嬉しそうにその日読もうとしたノートとBGMを片手に歩くアタシ、オール明けで目をしばしばさせながら歩くアタシ....楽しかった自分も確かにいた道だった。でも同時にあの日のアタシもまた痛みを胸に呼び起こす。泣き崩れた道を無言で通り過ぎ、十年ぶりに辿り着いたその場所にやはり店はあった。

階段をおりて扉をあけた。こじゃれててアッパーないいお店だった。一周して一通りの展示プランや企画のイメージを考えてみる。お店に誘ってくれた知り合いが来て、人を紹介してくれる。内側からポジティブがにじみ出る、繋がったら何かが起こせそうな人々。でも、希望で埋めたい今の願望の底で、アタシの痛みの記憶と、思い出したばかりの楽しそうな記憶が攪拌されて三つの感情に揺れる。一時間頑張った。でも、それが限界だった。

店を出てからも少し錯乱気味な発言を繰り返すアタシにカズキックが言った。
「考えすぎだよ、ヴィヴィアン、そうやって考えすぎて思い悩むことが何を産むの？」
その通りだと思った。

でも自分が嫌になっていた。
記憶の痛みに溺れかかりながら健全を取り繕ったフリをして、しかもそれを自己処理できず、しかも１０年前に詩人の仲間に頼ろうとして失敗し、今度はそれをバンドメンバーとか知り合いに支えられつつ出来たらという甘えがおきた弱さが嫌で、一人でやっぱり戦うしかないものだ、と思った時の孤立感に震える。

土用中の気の迷いとはいえ、何故そんな真似をしたかといえば、アタシ大丈夫だ！と思えたら自分を強さを信じられただろうし、そうやって乗り越えたアタシを誰かがほめて仲間に受け入れてくれるのではないかと思った。まるで小学生の発言だが、アタシの中に確かに満たされない子供がいるのだ。人の救いを期待して危うい場所に立つのは許されぬことだ、自分で感情を処理できない場所に近寄ってはならない。でないと、関わっていたい大事な人たちとの関係が壊れてしまう。

行ってみてわかったのは、Dr.MiｌKはやっぱり死んだのだということ。
でも、その墓の住所はアタシの魂の中にあり、エゴでそれに向かい合えば墓を荒らす結果しか招かないということ。

でもどうしてだろう？人は時々忌まわしい記憶にあえて触れようとするよね、
痛みから学んだ場所が喜びに変わることはないのに。

欠けた世界を修復したら、きっと自分に本当の幸せがくると信じているんだろう。
でもね、その結果心が歪んだら幸せは感じられないのだよ。

アタシは今回痛みから学んだ。
自分の精神の安定を保ちつつ、人に何か出来るように努力するのが大人の優しさだと。

アタシはやっぱりソレを乗り越えられなかった。あまりに情けないからいい加減やめようと思って少しだけ口角をあげたらアホウみたいな感じになって少し楽になった。