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2007年8月21日 (火)

夜を生き、夜に逝け。

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 夏の夜を支配しているのは実はたった一人の処女であって、彼女がまだ出会わぬ男の肌を思って身体を火照らせばその影響をうけて大気はますます熱を帯び、彼女がため息を漏らせばその思いで大気は重たく湿っていく。だからこんなにも夏の夜は重苦しく、時に行為は衝動をおびてやるせないまでに人を駆り立てる。彼女を抱こうにも人は彼女を見つけることすらできない。皮肉なことだ、こんなにも狂おしく彼女の心の全てを肌に感じているというのに。

彼女、とは実は限定された存在ではないのかもしれない。女たちの魂が持ちえた純粋無垢な総体がたった一つの処女という幻影をもちえて夜を支配しているのかもしれない。誰からも何ものからも解き放されているのに誰よりも不自由な彼女。もう何も欲してはいけない。処女性は天女のような軽やかさで持って所属に恋をしてはいけないのだ。

しかし彼女たちは恋をする。それが女として生まれたたった一つの価値だと信じるかのように所属に恋している。時に彼女たちは所属する側に回ることを欲し、それ以上に所属されることの喜びに飢えている。解放への渇望は自身が望む形での所属への永遠の戦いであり、内なるその意識に目覚めれば目覚めるほど彼女たちは戦士としての己の存在に絶大な価値をおきはじめる。

僕は最近エアメールで幼馴染の死を知った。ひざ下にも届かないほど葉を固めた植物たちがダラダラと沿道で行進するアメリカの道の途中で砂埃にまみれて彼女は道路わきに横たわっていたそうだ。日に照らされた肌は白いまま組織は日焼けを製造する過程すら忘れ、ただ口から一筋の血が流れていたらしい。とても安らいだ様子だったと手紙は告げていた。彼女の白いドレスは砂にまみれ赤いベルトはところどころ剥げ落ちていたというのに。

「処女性だけがすべてと思うのね。」彼女はバーテンダーの動きを注視しながら発せられる一音一音の響きに気をつけてゆっくりと発音した。二つのことを同時に成そうとする時、その輪郭に最大の関心を払うのが彼女の癖だった。「私にとってそれは生殖という概念を棄てることなのよ。」そういうと二本の指で器用に挟んだタバコに口をつけ、天井のファンに向かって紫煙を吐くと静かに微笑んだ。生殖を大事にする、という意識をタールとニコチンでのダメージに置きかえる喫煙という取引を彼女は心から楽しんでいるようだった。タバコを吸う女は嫌いなのさ、と男が言うたび、彼女はバックからタバコを出しては口に咥えゆっくりと微笑してから外にでていった。彼女は何を嫌っていたのだろう?性欲の飢えをコントロールする生存と生命維持を託される無意識の期待、ある時から彼女はその辺のことを覚悟をもって切り離してしまった気がする。そしてそれゆえに彼女は美しかった。

一枚の無理やりに引き伸ばされた写真が封筒の中に残されていた。警察の現場検証が始まる前に彼が撮った彼女であったもの、崇高な入れ物である身体の最後の映像。両手と両足を広げて横たわる彼女のバックには乾いた肌をした山が見えた。天気は快晴。日の光がその最後の姿を焼き付けるように画面をすこし黄色く濁していた。何処までも自由でいるようでいて、結局は大地との所属に深く深く縛り付けられているその絶対的なパノラマに僕は泣いた。

久々に彼女のことを思い出したのは今日という日がとても暑かったからだ。この暑さで人が死んでいる、でも彼女の死も彼らの死も実体として触れていない僕にとっては幻想のようなものだ。幻想のような現実、もしくは現実という名の幻想。こめかみから首筋に流れ落ちる汗だけが現実だ。僕は祝福を叫ばないかわりに右手で汗をぬぐった。

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二代目市川商店 PARA企画不定期ライブ
「PARA-KYOU-BACO:一発目」
(ぱらきょうばこ):独特の世界を確立する“朗毒志人”PARAさんが企てる
ゲストを迎えての2マンライブの最初のゲストに選ばれました。
今日のショートショートを読んでもいいかなと思っています。
ライブハウスではやれないので。

彼の紹介は後日。

日時:8月23日(木)20:30より(20時開場)

場所:Bar AriA
東京都杉並区高円寺北3-16-2 2F
高円寺北口中通商店街(セントラルロード)を直進7分ほど歩いた右手 
かきちゃんらーめんの2階
03-3223-8073

料金:1500円(1D付:お店の通常料金)
自分ゲスト共にカンパ箱設置、お気持ち大歓迎です。

 

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コメント

昔を思い出しての一筆だそうですが、文章の雰囲気がとても夏してる気がしました。
文自体が湿って液体っぽくてまとわりついて、暑ーい感じがするの。

ぺこ虫が残夏を記してみよーと、ぱかぱかキーボードを触ってみた時に
暑さを叙情的に語る事がむつかしかったので、これがことばによる暑さか、と思ったの。

投稿: ぺこ虫よねっく | 2007年8月25日 (土) 02時43分

かきこみありがとよ。そうそう、夏の暑さに蒸されて冒頭の文章が浮かんできたんだよね。嬉しい感想文だわ。

投稿: Vivienne★ | 2007年8月25日 (土) 21時20分

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